「半径2キロの栄養循環」を掲げて食物の循環のある社会を目指すローカルフードサイクリング社のたいら由以子さんの連載です。
昨今、環境に関する社会の関心も大きくなってきたと感じますが、それでもまだまだ「残った食材を捨てずにたい肥にしてまた野菜を育てる」ということが行政でシステム化され、それが当たり前のことになる日が来るまでには大分時間がかかりそうです。
たいらさんが27年間歩み続けてきた道には多くの壁が立ちはだかってきました。
怒りも涙も戸惑いもあったけれど、その都度あたらしく自分をアップデートしていくたいらさんの言葉には大きくうなづけるし、一つのことを成し遂げようともがく人たちにとってはおおきな励みになる、そう思うのです。
イラスト、タイトル文字/たいら由以子
撮影/原 幹和

みなさん、こんにちは。
たいら由以子です。
父の病気、看病をきっかけに、食べ物の残りをゴミにするのではなく、たい肥にしてそこからまた野菜を育てて食べる、という食物の循環が、いかに人類のために必要かに気づきました。
「半径2キロの栄養循環」―私はずっとそれを広め、仲間を増やすためにあらゆる形で表現し、訴えてきました。
この連載では、そもそもの発端から、コミュニティガーデンの可能性や、そこで起きている人々の変化をお話ししてきましたが、実際はここまで来るのに、27年間、この活動はずっと壁にぶつかってきたといえます。
今回はその話をしようと思います。
法律が、追いついていない
生ごみを堆肥にして、その地域で循環させる。
それを多くの人が始めれば環境問題の一つの解決になるじゃない!
わたしのイメージは大きく膨らみ、これを行政にもはたきかけて、
システムにできないかとさまざまな行動を開始しました。
生ごみを集めて堆肥にし、資源とする―ただそれだけのシンプルな話のようですが、
これが法律の壁に何度もぶつかってしまうのです。
日本の廃棄物に関する法律は、昭和の時代に不法投棄を防ぐことを主な目的として作られました。
「ごみを捨てさせない」、という発想で設計されている。
だから、生ごみを「資源」として地域で循環させようとすると、法律の枠組みにうまく当てはまらないんです。
行政の縦割り構造も壁になります。
環境の担当部署、農業の担当部署、福祉の担当部署——それぞれが連携せずに動いていると言わざるを得ない現状。
そして、役所の3年ごとの人事異動も難点で、せっかく動き始めるか? と思うと担当者の人事異動があり、せっかくその人と積み上げた話がゼロに戻ってしまうこともある。

正面から戦っても、変わらない
最初のころは、行政に対して「それはおかしい」と声を上げることもありました。
でも、正面から対立するだけでは変わらない、ということもだんだん学んできました。
行政には、地域の人々からの信頼を得る、という大切な役割があります。
だから、行政を批判するのではなく、その目的や必要な手続きを理解した上で、一緒に動くことが、取り組みを計画、成功させるために不可欠だと気づいたんです。
「活動家」として行政に怒鳴り込むより、行政の担当者と一緒に「どうすればできるか」を考える。
今では、その方がずっと遠くまで行ける道だ、と思っています。


福岡市で、扉が開いた
壁にぶつかり続けてきた中で、一つ、大きな扉が開いたことがあります。
福岡市の特別戦略特区制度を活用して、福岡市内のコミュニティガーデンを
「食品リサイクルループの還元地」として行政に認めてもらえたんです。
生ごみが堆肥になって、その堆肥でできた野菜がまた食卓へ戻ってくる。
この循環を、行政が正式に「仕組み」として認めてくれた。
小さな一歩かもしれませんが、わたしにとってはとても大きなことでした。
このような地方の先進事例が、全国の規制緩和につながっていく。
そういう積み重ねが、社会を大きく変えていくんだと思っています。

マイナスをゼロにするだけじゃない
行政の環境政策の進捗がなかなか難しいのは、福祉政策のように、わかりやすい結果が見えにくいということです。
「高齢者のために・子どものために」とお金を使うことは、多くの人にとって良いこととして、目に留まります。
でも、「環境・ごみ削減」などの政策への評価は、個人の価値観に依存する部分が大きくて、予算がつきにくい。
でも、わたしが伝えたいのは「環境破壊というマイナスをゼロにする」という話だけじゃない。
コミュニティガーデンで人がよく変わる、あらゆる世代の孤独感が和らぐ、子どもたちが育つ——そういうゼロからプラスを生む力がある、という、事実。
これらは社会課題の解決にもなる事例です。
だから、この活動を、ウェルビーイング、つまり「人がよく生きること」の観点から語れば、もっと多くの人に、わたしたちの言葉が届くはずだと思っています。
そう、システムが変わるのを待っていたら、間に合わない。
だから、地域と家庭が先に動くことが大事。
まずは「循環のある暮らし」をわたしたちが先に実践・実装・周知して多くの人に広めたら、後から法律や制度が追いかけてくる——そういう順番でいいと思っています。
次回は、「半径2キロの循環」を実際に暮らしの中に実装しようとしている現場の話をしようと思います。
●著者紹介 たいら由以子(たいら ゆいこ)さん 福岡市生まれ。大学で栄養学を学んだ後、証券会社に入社。結婚後に地元の福岡に戻り、父親との別れをきっかけに「栄養循環」を半径2㎞単位で作ることで持続可能な食の仕組みを構築することを決意。1997年よりコンポストの普及とコンポストの人材育成事業を展開する。ローカルフードサイクリング株式会社代表、LFCコンポスト代表を務める。
ローカルフードサイクリング株式会社
●たいらさんの新刊「おいしい循環」をご紹介しています。ぜひご覧ください。
●「地球にいいことの始め方-台所から始める、循環させる暮らし」記事一覧
vol.1 父の命が教えてくれた、食べものの本当のちから
vol.2【たいら由以子 地球にいいことの始め方-「ずっとそこにあった母の堆肥」】
vol.3【たいら由以子 地球にいいことの始め方-「半径2キロの魔法〜主婦の生活圏で完結する循環のかたち~」】
vol.4【たいら由以子 地球にいいことの始め方-「わたし」、という言葉】
vol.5【たいら由以子 地球にいいことの始め方-「全部、ひっくり返す」】
vol.6【たいら由以子 地球にいいことの始め方―地域で循環を起こす・コミュニティガーデン】
vol.7【たいら由以子 地球にいいことの始め方ー人を良く変えてくれる場所】
vol.8【たいら由以子 地球にいいことの始め方―数字に表せない価値】
vol.9【たいら由以子地球にいいことの始め方ーコミュニティガーデンというインフラ】
vol.10【たいら由以子 地球にいいことの始め方―わたしたちが先に動けばいい】














