長年にわたり90歳以上の人々の話を聞き取ってきた、東京都市大学教授 古川柳蔵先生と東北大学特任助教 三橋正枝先生の共著。多世代で暮らす家庭がどんどん減っている今、普通に、幸せに、人間らしく暮らすための本質を考えるのにうってつけの一冊です。そして、読んだら、あなたもそばにいるお年寄りの話を聞きたくなりますよ。

著者:古川柳蔵 三橋正枝
筑摩書房
価格:2300円+税
聞き書きから見えてくる「暮らし方の美」
「ウェルビーイングとは?」「充足感とは?」を考えるとき、私たちはつい「今の自分」「今の社会」から出発しがちです。でも、この本を読むと、まるで時間の流れが反転するように、自分の祖父母やそれ以前の人たちに思いを馳せることになり、自分は「どこから来たのか」を静かに思い出すことになるのです。
本書は、1914〜1936年生まれの方々への聞き書きをまとめたもの。著者の一人、古川柳蔵先生(東京都市大学教授)は、長年にわたり「90歳ヒアリング」を続け、600人以上の90歳前後の方々の暮らし方、人生を丁寧に聞き取ってきました。
その膨大なフィールドワークの中から浮かび上がるのは、地域の自然や気候とともに暮らしていた人々の姿です。雪の重さ、風の向き、川の流れ、季節の匂い、家族が協力して守ってきた習わし——それらすべてが暮らしのリズムをつくり、人の営みを形づくっていたことが、ありありと伝わってきます。

古川先生は、こうした戦前の暮らしの中に「暮らし方の美」があると語ります。
その“美”を現代に伝える活動が評価され、今年3月「IAUD国際デザイン賞2025」サステナブルデザイン部門を受賞しました。暮らしそのものをデザインとして捉え直す視点は、人がよく生きることを考えるうえでも、たいへん本質的なものだと思います。
※「IAUD国際デザイン賞2025」https://www.iaud.net/award/
「私は突然ここに生まれたわけではない」という感覚
この本に登場する人たちの語りを読むと、ふと立ち止まってしまう瞬間が何回かあります。
「自分は突然ここに生まれてきたのではない。この人たちがいて、私がいる」
そんな連続性の感覚が、静かに、豊かに胸に広がります。
自己紹介をするとき、私たちはつい“何をしているか(DO)”から語りがちです。
でも、祖父母や曾祖父母の話から始める“BEからの自己紹介”は、もっと深い自己理解につながるのではないでしょうか。この本は、そのヒントをそっと手渡してくれるように思います。

本を読んだら、身近な高齢者の話を聞きたくなる
本書の魅力は、単なる「昔の暮らしの記録」では終わらないところにあります。
読み進めるほどに、「自分の周りの高齢者の話を聞いてみたい」「聞くべきだ」と自然に思えてくるのです。
暮らしの知恵、地域の記憶、家族の物語。
それらは、今を生きる私たちを支える“土壌”のようなもの。
聞くことは、その土壌を耕し、触れる行為でもあります。
ウェルビーイング100では、「よく生きる」ヒントを探し続けています。
『聞書 戦前の暮らし方』は、今と未来のウェルビーイングを考えるために、過去の暮らしを丁寧に見つめ直すという、とても大切な視点を与えてくれる一冊です。
「暮らし方の美」を未来へつなぐ一冊、ぜひ手に取ってみてください。
●著者紹介
古川柳蔵(ふるかわ りゅうぞう)
1972年東京生まれ。東京都市大学環境学部、同大学院環境情報学研究科教授。専門はライフスタイルイノベーション。共著書に『地下資源文明から生命文明へ』(東北大学出版会)、『キミが大人になる頃に。』(日刊)、『未来の働き方をデザインしよう』(日刊工業新聞社)、『90歳ヒアリングのすすめ』(日経BP社)などがある。
三橋正枝(みつはし まさえ)
東北大学大学院環境科学研究科環境研究推進センター特任助教。フリーランスのシステムエンジニアを経て、2015年より現職。持続可能で心豊かな暮らし方と価値観の転換に関する研究に従事。食品ロスを低減するための研究プロジェクトを立ち上げ、社会実装に取り組んでいる。また自治体の各種計画支援業務や環境教育も実施している。














