【サイボウズ:ウェルビーイングの鍵は「DXとチーム戦」にあった!】

今、健康経営に取り組むことが、企業にとっての正解であるかのように語られることが多い。
「今や健康経営は当たり前のことだよね、やっておいたほうがいいよね」というわけでもないでしょうが、あちらこちらでウェルビーイングが推進されるようになりました。
ところが、よくよく話を聞くと、健康経営と収益の関係がうまくいっていない、どうすれば、これが二項対立とならないようにすればいいのか分からないなどという、とまどいの声がとても多いのが実情です。
健康経営やウェルビーイングの推進と、企業としての収益。
このふたつの両立は難しいのでしょうか。
「ウェルビーイング」という言葉がこれほどに人口に膾炙する前に、日本でいち早く、個人の幸福と組織の関係を考え、そして具体化した先駆者であるサイボウズ(株)の青野社長に、日本企業のウェルビーイングの現状をどう見るか、どう考えるべきかを伺いました。

お話しをうかがった人/サイボウズ(株) 代表取締役社長 青野慶久さん
聞き手/ウェルビーイング100 byオレンジページ編集長:前田洋子 アンティーファクトリー:中川直樹
撮影/原 幹和
文/小林みどり

「在宅勤務」についても、経営層と社員の「認識」を合わせることが必要

━━━「健康経営を進めると社員が働かなくなるのでは」と危惧する声を聞きます。健康経営と収益を、二項対立として捉えているようです。この現状についてどう考えますか?

青野慶久さん(以下、青野):健康経営と収益を、相反するものとしての「対立」ではなく、いかに「両立」させるかを考えないといけないのでしょうね。

そもそも、会社には企業理念があり、その企業理念を実現するために人が集まっています。理念実現のために生産性を上げることばかりに囚われ、人々の幸福をそっちのけにした結果、みんななんか青い顔をしてバタバタ倒れていく。人間の幸福のために会社をつくったのに、その会社が社員の人生を不幸にしているのもおかしな話ですね。やはりここは、「社員の幸福」と「会社の利益」、どちらも両立させるべきなんですよ。

この両立がうまくいくと、人々は幸せで、幸せだからもっと頑張る。みんなが頑張るから、生産性も上がる。それがまた喜びに還元されて、さらに生産性が上がる。一方だけが大事だとか、どちらかを犠牲にするとか、そうではない。どちらも大事にして生まれる良い循環をどうつくるか、という話なんだと思います。

━━━実際に良い循環をつくるには、具体的にどうすればいいのでしょう。サイボウズでは、会社が大きくなるに従い自分の希望ばかり優先する人が増えてきて、軌道修正のキーワードとして「マッチング」という言葉を使うと伺いました。

青野:そうですね。「100人100通りの働き方」をやめて、今は「100人100通りのマッチング」に取り組んでいます。コロナ以降、急激に人を増やしたこともあって、マネージャーの育成が追い付いていなかったんですね。

個々のメンバーがわがままをぶつけるのはOKなんです。でも、そのわがままをぶつけられたマネージャー側が、それに対してわがままをぶつけ返せていない。言われっぱなしであたふたしている。それが問題だと、僕は思いました。
マネージャーはマネージャーで、自分の部署をこうしたい、こんな成果を出したい、だからあなたにはこんな風に働いてほしい、この仕事をしてほしいとぶつけないから、うまくマッチングしなくてすごくアンバランスな状態に陥っていたわけです。

在宅勤務についてもそうですよね。家で仕事ができるなんて、個人にとってはラクでいいわけです。やろうと思えばいくらでもプライベートを優先できて、生産性が落ちるかもしれない。でも、これを健康経営の視点でみると、その人が会社に出てこれない日であっても家で働かせるという制度なんですよ。どちらも真なりで、どちらかが勝っては成り立たない。在宅勤務の制度があるんだから、家にいて何が悪いんですか? と主張されたら、いやいやちょっと待て、あなたは家にいても効率よく働いてくれるから、この権利が認められているんですよと。そうやって、双方の認識をマッチングさせる必要があるわけです。

だからマネージャー研修を増やして、マネージャーとして自分の部署をどうしたいのかしっかり考え、マネージャーとしてのわがままもちゃんと主張しなさいと。それをお互いに出し合ったうえで、さてどうしようかと議論する。このスタイルに戻す必要があったんですね。

生産性に関して、「効率」ではなく「労働時間」の議論になっている違和感

━━━なるほど。個人とマネージャーのマッチングは、健康経営と収益化を両立するひとつの手段として効果がありそうですね。それで好循環になれば、日本の企業の生産性も上がっていくと?

青野:いくつかの切り口のひとつにはなるでしょう。ただ、失われた30年と言いますけど、その間、日本人がまったく働かなかったわけではなく、むしろ日本人は長時間労働で、その割に生産性が上がらなかった。それで、働く時間を短くする流れになったものの、なぜか生産性は上がっていない。じゃあ、やっぱりもっと働いた方がいいんじゃないかと。今、そんな話をよく聞きますね。

でもね、いやいや時間の問題じゃないよねと。どうしたらもっと短時間で効率よく働けるかという議論をしなくちゃいけないのに、効率の部分が抜けて時間の長さだけの話になっている。
なぜ日本人が長時間労働の割に結果が出ていないのかというと、まず、現代風のツールを使いこなしていないことが一点。シンプルにDXをやれ、ITを使って効率よく働こうという話です。

そしてもう一点、属人化を避けてチームで働くスタイルのほうが生産性は上がるということ。たとえばサイボウズでも、特に営業は自分で見つけてきた案件を誰にも渡したくなくて、全部自分ひとりで抱え込んでしまうということがありました。その気持ちはすごく分かりますよ。でも、時間外でも顧客のニーズに応えなくちゃと無理をして、なかなか長時間労働から抜け出せない。自分の働く時間をコントロールできなかったんですね。
それを、チーム戦に変えたんです。明日は子供の運動会だから休みますと言えば、他のメンバーがあとを引き受けてくれる。次の案件のとき自分がうまく提案できなくても、他のメンバーが助けてくれる。そうやってチームで取り組むことで、生産性は上がります。

会社組織もひとつの大きなチームですし、その中に大小さまざまなチームが入れ子の構造で存在しています。それぞれのチームをうまく機能させるには、情報共有が非常に大事。在宅勤務のスタイルが広がってからは、情報だけじゃなく状況の共有も大切だというのが、僕たちの気づきです。

それには、ITの力がないと難しい。サイボウズには「分報」という、なんでもつぶやける社内SNSがあって、今からお昼食べに行ってきますとか、ちょっとここが分からないとか、ようやく終わったなど、個人の状況をつぶやくわけです。テレワーク中でも、隣の同僚にリアルに話しかける感覚で状況を共有できる。こういったことも含めて、組織のDXとチーム戦の両輪が、生産性を上げる鍵だと思っています。


チームワークに不可欠なのは「公明正大」「自主自立」、そして「対話と議論」

━━━健康経営と収益化の好循環がうまく軌道に乗った将来、日本はどうなっているでしょう。

青野:日本にある何十万、何百万という会社で、みんな自分の生活のペースを崩さずに幸せそうに働いている。それでいて、組織の生産性は高い状態。これが、僕のイメージする完成形です。

ただ、もう少し補足すると、そこには文化的な側面も必要です。サイボウズの企業理念にもありますが、チームの中にいる人たちはそれぞれ個性的であっていい。でも、同じ目標に向かうチームの一員として「公明正大」であること。嘘をつかない、隠さない、信頼し合えることが大事。そして「自主自律」。

僕はこうしたい、明日は休みたい、でもこの日は夜まで働けますと、自分の主張をちゃんと言える主体性をもつこと。ただし、単に自己主張が強いだけでなくて、ちゃんと相手の意見も聞いて「対話と議論」ができないと、チームは成り立たちません。
ここまでできれば、個々人はとても個性が強くて凸凹でも、ガチャッとうまくハマって石垣のように強くなれると思うんですね。

会社は人が幸福になるためにある

━━━お話しを伺っていると、個人のウェルビーイングと企業としての収益化は両輪とはいえ、根底ではやはり人間の幸福が先に立っているような印象を受けます。

青野:何百年か前にオランダで株式会社の仕組みが生まれたわけですが、なぜ会社という形で働くかというと、みんなで力を合わせたほうが個人より効率よく働けるからです。そして、なぜ人間が働くかというと幸福に生きていくため。

こうすれば俺たちもっと効率よく稼いで楽しく暮らせる! というのが、そもそもの会社の目的のはず。人間が会社の犠牲になり、会社によって不幸になるなら、そんな会社はいらないという話になります。
会社とは、人間が幸福になるために存在するもの。健康経営を考えるうえで、その前提は常に念頭に置いておかなければいけませんね。